「生誕100年東山魁夷展」国立近代美術館

きれいなものをたくさんみたなぁと思った。それは心地よい体験であったので、会場を行きつ戻りつ、うろうろした。
もともと、きれいなだけの表現にはピクリとも心を動かされない性質である。一瞬の表現に表現者の生きる全てが込められているような作品を好む。しかし、東山魁夷についていえば、きれいであることに心を動かされる。穏やかにきれいであることがこの画家の本質であるからかと思う。
事の深部に激しく鋭く切り込むことはないが、事の表面、うす皮一枚を潔く、巧みに剥ぎ取って並べて見せる。その潔さ、巧みさゆえの心地よさと、しかし、うす皮一枚であるゆえの頼りなさも、わたしは感じたのであった。それでも、平らな描写であるのに、そこに現れる空間の奥行きと、微細な揺れを感じる独特の空気感を感じることは、異界への道行きを誘われるような幽玄な体験であり、絵画鑑賞の心地よさを堪能した。
会場は盛況で人は多かったが、身動きできないほどでもなく、久しぶりにゆっくりと絵画鑑賞の時間を持てたのは幸せ。平日の午後早く、土砂降りの雨の日というのが幸いしたのかな?