「大いなる遺産 美の伝統展」

東京美術倶楽部創立百周年記念だそうです。限られた時間の中で上野でやってる「ニューヨーク・バーク・コレクション展」とどちらに行くか迷ったんだけれども、美術商の方々のネットワークによりほとんど公開されない個人蔵ものが出るという話に心がひかれ、こちらに行くことにしたのであった。
「日本近代絵画の巨匠たち」と題された展示では、そんなに数はないのだけれども、どれひとつとして知らない名前がないという教科書的に有名な作家のオンパレードで飽きなかった。
ああこの人はこんな絵だったなぁ、この人はそうだったなぁといちいち頷きながら観ていく。絵についての記憶と同時に、教科書を眺めてせっせと有名どころの美術展に通っていた自分の思春期の気分まで掘り起こされて、妙な感じに。
今のわたしに強く印象に残るのは菱田春草の「柿に猫」*1の画面の完璧な配置、竹内栖鳳のタイトルは忘れたが、もやっとした黒の使い方の狂いのなさ、東山魁夷の幽玄のあわいの空気感。
東山魁夷は昔はそんなに惹かれなかった。取り澄ました感じがして魅力を感じなかった。でも今は絵の前に立つと引き込まれて認めてしまう。一度認めると取り込まれてしまう。色がきれい、線がきれい、形がきれい。でもこの人の絵の力はそれではない。その先の何かを感じる。似ているのは…春爛漫に桜の花を見つめている時に感じる異界の気配かな。改めてまとめた展覧会を観てみたいもんだ。
この人は知らない名前だったけれども岡田三郎助「あやめの衣」小細工一切ナシでそのままうつくしい女の人の肩肌脱いだ姿にしばし見惚れる。この手の絵は退屈なことが多いけれども、この作品は違った。何が違うのかな…。
その他いろいろ。佐伯祐三富岡鉄斎は好みの絵ではないけれど、これはこれで完成しつくしている画風の前に、文句は言えない気持ちよさがあるってことなんだなぁと確認したり、棟方志功にはいつも見つけるものを今日も見つけた、とか、ひとつひとつの絵の前で何かを見つけながら心の中に降りてくる言葉を楽しんだひと時だった。

*1:個人蔵なのねぇ…。ものすごっく!! 欲しかった。この絵を。辛い時、この絵を見たら生きる勇気が湧くと思ったのよ…。