北斎展

北斎に限らず、浮世絵の絵師の誰が誰だか、教科書に載っていた名前は知っていても、全く区別はついていない。けれども浮世絵は良いものに出会うと直接脳幹に来るような思考を超えた強い印象を得ることがあるので、その快感を求めて、高名な北斎ならさぞや強烈なものを見られるだろうと期待して行った。
北斎の生涯にわたる作品を時系列に並べてある会場の前半は、期待に反して、それほど強い印象を得るものはなく。
「はて?」と思いつつ、人込みの中を縫いながら根気よく見ていくと「北斎漫画」が出てきたあたりで様子が変わった。さまざまなものを写したたくさんの小さな絵に目が吸いつけられる。それ以降は作品と相対するわたしの間に余計なものがなくなった。作品によって引き寄せられた世界にがっつりと向かい合うのが楽しい。
途中、順路のところに「冨嶽三十六景」の「赤富士」と「浪裏」の写真が会場図の中に矢印で「ココ!」とわざわざ示していあるのを見て「はぁ〜この絵の作者か、なるほど」とやっと納得(という程度の知識で行ってます)。
芸術作品の仕上がりを意識する時、人間に向かっている(つまりは人の目を気にしている)場合と世界と対峙することに力を注いだ結果現れるものが軌跡として出てくる場合とあり、北斎もある時期から軌跡を残す人になったのかなぁと、わたし程度の知識では妄想に近いけど、そういう感想を抱いた。
会場には19歳でデビューしてから90歳で亡くなるまでの作品をわりと偏らずに展示してあって、その時々にいろんなことをしている人なんだなぁというのがわかっておもしろかった。完成した作品もよいけれども、時々に描き方指南のようなものを描きとめているスケッチに興味を引かれる。
何かを描き出すことよりも、描くことそのものをいろんな形で試みる創作態度、それが多岐に渡って精力的な感じは、わがアイドル、ダ・ヴィンチ*1に似てるかもと思ったり。
それにしてもいくら会場が混んでいるからといって第一展示場が混んでいるので第三展示場から見始めろと誘導するのはいかがなものかと。今回の展示の場合、なにか目玉の作品があってそれを目当てにに行くというのではないし、ひとりの画家の生涯にわたる作品をまんべんなく展示するという趣旨から言うと時系列で観たほうが得るものはあると思うんだけどなぁ…。