市村正親さんのこと

市村正親さんは現在わたしがいちばん愛している舞台の役者さんです。ファン暦は中くらい?かな。初めて見たのは劇団四季での最後の舞台「エクウス」で、それ以来のファンだから、彼がミュージカルに出演していた頃のことは全く知らない。でもそれ以来、可能な限り観ている。
「エクウス」は映画「アマデウス」にいたく感動して、同じピーター・シェーファーの作品で宣伝を見ると実存に関する重いテーマを扱っている話のようだし「アマデウス」の感動をもう一度と思って観に行ったという記憶がある。そして、激しい衝撃と感動を得て家路に着いたと。
あれははいろんな意味で心に刺さる作品だった。はじめにガツンとやられたのは市村さんの声だった。あの張りのあるカンと響く澄んだ、強い力を持つ声。わたしはああいう声質がもともと好きで、その上そこに半端ではない力を持って情感が込められ、しかもその内容が存在に関する疑問ときては、ガンガン頭に響いてくる。
ああいう人間とはというテーマを哲学的に象徴的に突き詰めていく話はもともと好きだけど、ちょうど観た時期が哲学や芸術へどうしても気持ちが向かうがそれを職業にするほどの才能も気概もないと自分を見限って、自分の資質を内へ押し込めて社会に順応しようと努力していた時期で、あの作品を観ることでもう一度自分の本来の欲望をこじ開けられてどうしようもなくなって右往左往、とにかくなんとかせねば〜という状況になったキッカケの作品だったから印象が深い。
その上、あれは今思っても、キャスティングもキャストがあれを演じる状況も理想的な状態の舞台を見せていただいたと思うので、さらにわたしはわたしで自分に向き合わざるを得なくなったんだろうと思うわけです。
市村さんはその時初めて見たわけだけれども、今更言うまでもなく、役者家業命がけの命がけが半端でなく命がけの役者さんで、そんな稀有な人のさらに、人生の区切りの舞台。それを支える相手役の日下武史さんの静かな熱演。結局、あの時、三度観に行ったんだけど、特に千秋楽のクライマックスはふたりの姿に鳥肌が立ちました。一度目で、演じる市村さんに惚れて、二度目、うっとりと市村さんを観て、そして三度目、そこには市村さんはいなかった。そこにいたのは、う〜ん、名前忘れたけど(資料も手元にない。実家からとってこなきゃ)、存在の深いレベルまで主人公の少年。
あの時、舞台は生ものなんだなぁ、同じ舞台でも時に奇跡のようにどこまでも登っていくことがあるのだなぁと学んだ。一度目も二度目も、思い切り高いレベルの舞台だったのに、千秋楽はそれをはるかに上回っていたので。
声といえば日下武史さんの声も昔から好きで、聞いているだけでうっとり。市村さんと日下さん、ふたりの声を別のところで聞いても、ずいぶん長い間「エクウス」の衝撃を思い出して体が熱くなったもんでした。劇団四季はあの時速攻で四季の会に入ったらその時もらった会報で市村さんの退団を知ってあ然。でもそれがきっかけで四季のミュージカルを観るようになって、いろいろと楽しかったのでよしとするのであった。